069 フォアグラについて
世界三大珍味といえば、キャビア、トリュフ、そしてフォアグラ。星付き高級レストランでは必ずこれら三食材を使ったメニューがあり、世界の美食家たちをうならせる。なかでもフォアグラはフランスを代表する特産品で、フランス料理には欠かせない食材ナンバーワンと言えるだろう。代表産地はフランスはドルドーニュ、ランド県やアルザス、ラングドック地方、ハンガリーはドゥナントゥール地方が有名で、それぞれの特徴をいかした多くの名物料理がある。
フォアグラとは、文字通り「foie 肝臓」「gras 太った」、ガチョウの肝臓を強制給餌(カヴァージュ)により太らせ、人工的に脂肪肝を作りだしたものである。もともと古代ローマ人がガチョウに干したいちじくをあたえ、その肝臓を食べたのが始まりらしいが、現在ではやわらかく蒸したトウモロコシを、じょうごで無理やり胃に詰め込む惨いやり方で作られている。ガチョウ以外に鴨のフォアグラもあるが、私は融点が高く、よりまったりとした食感が味わえるガチョウの方が好みなので、ゲデレーではオープン以来ハンガリー産のガチョウフォアグラを使用している。ただ、世界では今、そんな惨いやり方が動物虐待にあたるとして、生産や輸入を禁止する国が増えてきているようだ。美食家たちには少々心配な話である。
先日、ハンガリーからのガチョウフォアグラが届いた。仕入れ価格高騰で正直頭が痛いが、レストランにはフォアグラ!という使命感と、楽しみにしている常連さんたちの事を考えると外せない。「フォアグラのテリーヌ」はゲデレー定番の前菜となっているので、輸入規制がかかるまでは舌鼓を聞いていたい。







人間は人間から遠いものを食べるとよいと言われる。我々人間が食べるものは、動物と植物と菌類、あとは水と塩。動物の食べるものは人間も食べられるが、植物の摂るものは人間はなかなか摂れない。まして菌類の摂る栄養となるといっそう人間には摂ることができないもので、これはその菌を食べることによってはじめて得られる。よってキノコを食べるのだと言う。キノコは菌類の花である。植物でも花を食すのは最高級趣向であり、栄養学的にもビタミンやミネラルを摂る最良の方法と考えられている。キノコとは「気の凝ったもの」、つまり「元気、力、精力の詰まったもの」という意味あいを持つとされるので、元気がなく気が滅入っている時はキノコを食べると良い。・・・そう信じて食べるのが良い。
ハマグリが気持ち良さそうに殻から身を出している。そこへカワセミがやって来てその身をつついた。慌てたハマグリは両殻を合わせてそのくちばしを挟んでしまう。カワセミは言う。「こう挟んだまま今日も明日も雨が降らねば、お前は乾いて死んでしまうぞ。」ハマグリは答える。「こう挟んだまま今日も明日も殻を開かねば、お前は餓死してしまうぞ。」 そうやって意地を張っていると、そこへ漁夫が通りかかり両方生け捕りにされてしまった。・・・これはご存知、「鷸蚌(いっぽう)の争いは漁夫の利なり」と言われる、中国戦国策にある有名なことわざである。
春の訪れが近いちょうどこの時季、スーパーマーケットの入口付近は真っ赤なイチゴが占領し、おいしそうな甘い香りを漂わせる。香りに誘われ、ついついというお客さんも少なくない。果物のなかでは、特にビタミンCの栄養価が高く、季節の変わり目の風邪予防にこの「ビタミンCの女王」は最適である。イチゴの歴史は古いらしいが、栽培果実として日本に定着したのは100年ちょっと前なので、割りに新しい果物の部類に入る。子供の頃田舎の畑によく見かけたので、古い時代の人たちもこうやって食べていたのだと勝手に勘違いしていた。イチゴは別名「オランダイチゴ」と言い、江戸末期オランダ人によって長崎に伝えられたのだと言う。写真は本場オランダのイチゴで、日本より大粒でしっかりしていた。味も中まで赤くとても甘い。東の「女峰」、西の「とよのか」、日本ではこの2種が横綱を張っているとのことだが、最近は交配技術の進歩で色々な品種が出てきているので楽しみである。

ゲデレーのトリップ料理は牛の第2の胃「ハチノス」をつかっている。ハチノスとは文字通り蜂の巣に似ていることからついた名で、コリコリとした弾力のある食感が特徴である。下処理の段階である程度やわらかく煮込み臭みを消すのだが、厨房がとてつもないニオイに包まれるため、私はあまりやりたくない仕込みの上位にランク付けしている。また、内臓ホルモン焼きのホルモンとは「放るもん(すてるもの)」からきているとの俗説があるが、そのハチノス仕込みの日はその説が正しい!と確信する日でもある。そんなハチノスではあるが、それを野菜やソースと合わせ、ひとつの料理として仕上げるとこれが一転美味!!なんとも不思議な味で、言葉ではうまく伝えることが出来ないが、ぜひ一度味わっていただきたい一品である。
先日、散歩の途中でふきのとうを見つけた。田んぼの横を流れる川の土手に恥ずかしげに顔を出していた。語源辞典によれば、フキの葉に先立って出る若い花軸をさし、「ふきのしゅうとめ」とも言うとある。食べると苦いので、嫁と比べて姑(しゅうとめ)は苦いものという意味でそう呼んだらしい。寒い地方では「麦と姑(しゅうとめ)は踏むがよい」と言われ、土を割る頃に踏みつけるとよいのがでると伝わっているそうだが、意味深である。果たして本当であろうか?
茶はツバキ科の常緑低木で中国南部の霧の多い山岳地方が原産だと言われている。日本にも原生していたとの説もあるが、現在我々が飲んでいる茶は中国からのものと考えてよい。古くは729年、聖武天皇の時代、お寺で行茶をふるまったとの記録がある。最澄や空海も唐から帰朝した際に茶種を持ってきたようである。日本で茶の祖といえば京都建仁寺の栄西禅師を思い浮かべるが、それは栄西が「喫茶養生記」を著して茶の効能を説いたからで、鎌倉時代よりもっと古くから喫茶は行われていたのである。また、宇治茶と盛んに言われはじめたのは、室町に入り足利義政が茶事にふけり、宇治に茶園を設けて「宇治七園」と称した頃からとされる。やがて、武士のたしなみだ、侘びさびだ、などと言われ茶の道がもてはやされた戦国乱世の時代には、狭い茶室での内密話やはかりごと、茶道具は戦利品や褒美として扱われるなど、味わう茶ではなくなっていったように思う。強い武将にひいきにされたい商売上手な堺の商人たちが、茶道の確立に一枚も二枚もかんでいたのは有名な事実である。
今年の冬もよくネギがとれた。鴨料理をはじめ、付け合せにはかならずというほどネギを添えたし、よくスープにもした。特に太めのものは甘みも強くクリーミーなスープに仕上がる。畑の一角には昨年から植えた下仁田ネギという極太ネギも見事に育った。独特のねっとりした食感と上品な甘さは、さすがにネギの一流ブランドだとあらためて感心した。


紫紺のつやつやした肌、ぷっくりと下膨れたあいきょうのある体型、ついつい手にとってみたくなるが、新鮮な茄子ほどへたの部分のとげが鋭く注意が必要だ。最近は季節感なく野菜売り場で見かけるが、見分け方としては、首が太くへたに何本もすじがあるものがおいしい。早採りのものは首が細くて、味も落ちるようだ。
今やほとんどの国の料理に使われる食材「唐辛子」。日本でも文字通り「唐」から渡来し、食文化に深く根付いた薬味として重宝されている。よく使われる七味唐辛子の七味とは、とうがらし、胡麻、ケシの実、山椒、麻の実、ミカンの皮、菜種(なたね)のことで、そば屋などでは欠かせない究極の日本ブレンド物だ。

味わいも鶏肉に似て淡白で、多くの料理方法がある。うさぎ通で評判だったフランスのルイ18世は、肉の匂いをかいだだけで何処で捕れたうさぎか言い当てたという。野生のうさぎの肉は、餌にする草が肉の香りを豊かにするのだそうだ。当時は直火で丸焼きが一般的だったようだが、最近は煮込み料理をよく見かける。ビール王国ベルギーには、ビールの種類によって様々な味の煮込みがあるが、アントワープのレストランで食べた「うさぎのグーズビール煮込み」は最高だった。当店でも、うさぎを仕入れた時は必ずコクのあるベルギービールで煮込む。ぜひ1度味わっていただきたい料理のひとつである。
「鰤おこし」この辺りでは12月師走の雷鳴をブリ漁の合図としてこう呼ぶ。私は富山県氷見市出身、お国自慢といえば「氷見の寒ブリ、日本一!」と決まっていた。とにかくあの脂がのった寒ブリは最高、格別だ。大学在学中、都会(といっても名古屋)の人たちにこのうまさを味わってほしいと思って実家から送ってもらっていたが、「ブリ」とあだ名がつきそうになって友人たちにご馳走するのをやめた。
この時期はスーパーでもパック売りのブリの刺身をよく見かけるが、氷見では1メートルほどの大物でないとブリとは呼ばない。ご存知のように出世魚であるブリは大きくなるにつれ呼び名が変わる。氷見ではコズクラ、フクラギ、ガンド、ブリと出世していくが、それが関東辺りではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ、関西辺りではツバス、ハマチ、メジロ、ブリとなるそうだから、その地方で全く違う呼び名になる少々ややこしい魚だ。
ヨーロッパでは昔からスペルに「R」が付く月しか食べてはいけないとされてきた。つまり5、6、7、8月の4ヶ月間を除いた月だ。旬もあるが、おそらく昔は衛生面の問題で夏の暑い時期は食あたりが危ないのでそう言われたのであろう。日本でもカキはやはり冬のイメージが強く、鮮魚売り場にカキが並び始めるとそろそろ寒い冬到来といった印象を受ける。栄養面から言えば、カキは「海のミルク」と言われるほど栄養豊富で、肝機能を助けるタウリン、グリコーゲンをはじめ、亜鉛や鉄、特にミネラル含量は群を抜く。生ガキにはレモン(酸味)をかけることで、それらの吸収が高まるとのことなので、お酒のお好きな方はギュッとひと絞りをお忘れなく。
ブリュッセル、グランサブロン広場にあるベルギーでも屈指の人気店「レカイエ・デュ・パレロワイヤル」は私がもっとも感銘を受けたレストランである。(当店カウンターに掛けてある魚が描かれた額は、結婚記念日だからと無理やりお願いして貰ってきたその店のメニューだ。)エカイエとはカキの殻を開ける職人のことで、文字通りこの店の売りは生ガキをはじめとした魚介料理。とにかく内装のセンスが良く、味も抜群。そして何といってもユニークなのが黒服のギャルソンに交じって、前掛けをした魚市場のカキ開け職人風のおじさんが料理を運んでくるところだ。せっかくだからとその時はベルギーで採れる3種類の生ガキ盛り合わせを頼み、シャンパーニュと合わせて楽しんだ。残念ながら雰囲気にのまれてカキの味の違いは覚えていない。ひとつ言えることは生ガキは新鮮さが命、殻を開けてみずみずしくプリッとしていないとだめ。修業時代、1日100個以上のカキを開け続けた経験から学んだことだ。
先日図書館でのこと。「世界各国の小学生が描いた絵」のコーナーが設けてあり、これがなかなか面白く、妻とふたりで見入ってしまった。国柄の違いが色彩感覚の違いとしてこれ程までハッキリ表れるのかと、思わず吹き出した。欧米人の子供が使う色のカラフルなことと言ったらない、驚いた。それに比べ、日本人(アジアでも中国は意外にカラフル)の描く絵はとにかく暗く、色が少ない。もし私が先生なら子供たちにはこう教える。「32色の色鉛筆をまんべんなく使い切りなさい」と。
西洋料理にはよく使われ、サラダはもちろんメインの横に1枚あしらうだけで、グッと料理が引き立ち、皿が華やかになる。特にイタリア料理には欠かせない野菜として人気。残念ながら鮮やかな赤紫色は熱に弱く、キャベツのような火を通しての利用価値は少ないので、やはりサラダ向きの野菜であろう。苦味が特徴の味はお世辞にもおいしいとは言えず、彩り効果として使う添え物どまりの感は否めないのだが・・。ただ、栄養面では生で食べることで高血圧の予防改善に良いカリウムが多く取れるそうだから、少々の苦味は我慢していただこう。
サフランソースは私の大好きなソースのひとつである。
日本には語呂合わせ記念日がよくあるが、8月7日はバナナの日。バナナといえば、常にスーパーマーケットの入り口付近に陣取り、買い物客を出迎えてくれるもっとも大衆的な果物。ただ、年配の方々には多少思い入れが深い果物のようで、高級なイメージがまだ残っているらしい。というのも、フィリピンなどから大量生産の安いバナナが入って来るまでは、バナナといえば台湾産で、価格も今の倍以上はしていたというからそれは高級だ。特別な日か、病気をした時にしか食べられなかったというのも大げさな話ではない。1963年の輸入自由化を皮切りに価格はどんどん安くなり、バナナはみんなに愛される極々身近な果物となった。そしてバナナの皮は、いたずら小僧の必需品として活躍した。
ゲデレーではパスタアラビアータ(トマトソースのパスタ)と決めているお客様が何人かいらっしゃるようだ。とてもありがたいことであるが、年中同じ味をつくるのは正直たいへんだ。というのも、当店は生のトマトしか使わないので100個のトマトからは微妙に違う100種のトマトソースが出来る訳だ。麺をあえる何秒間かのなかで判断し1つの味を決める。塩やコショウ、茹で汁やオイル、時には砂糖を加えたりもするのだが、こればかりは自分の舌と経験から学んだことであり、人に教えるのは難しい。
「ククルビタペポ」というややこしい学名をもつこの野菜、形はきゅうりに似ているが、実はかぼちゃの仲間。カリウム、カロテン、ビタミンA、C、亜鉛、鉄分などの栄養素が豊富で、健康野菜として地味ながら頑張っている。もともとメキシコが原産で日本に入ってきたのは1970年代半ば、歴史の浅い野菜だがここ何年かのイタリア料理ブームで、ズッキーニの名はよく聞くようになった。緑と黄色があり、今やレストランではメインの横にあしらう野菜としては欠かせない存在だ。もちろん野菜料理として立派な一品(衣をつけて揚げるフリットなど)にもなる。最近は近くのスーパーでもチラホラ見かけるが、巷での人気は今ひとつのようだ。
香辛料の歴史は紀元前にまでさかのぼる。シナモン、コショウ、ショウガなど東方の香辛料をヨーロッパへ運ぶルートを支配することは、その当時の権力者にとっては天下取りの第1条件だった。1世紀になると、古代ローマ社会では贅を尽くした豪華料理を競い合うことが流行し、需要が頂点に達するとスパイスの値段は急騰、特にコショウは食卓の王様となった。たかが植物の種にすぎないのだが、それらの値が金銀と同じとなれば話は別。民族間の戦争も珍しくなく、人々は次々と荒海へと漕ぎだし、スパイスの確保に躍起になった。普段何気なく使っているコショウだが、その1粒1粒に波乱万丈の歴史が詰まっているのだ。
高級生ハムと聞いてまず思い浮かぶのは、スペインのハモンセラーノとイタリアのパルマハムであろう。かたく乾燥させ噛むほどに味が出るタイプの前者に比べ、後者はやわらかく塩分少なめで、甘みがあるのが特徴。うすくスライスし、メロンやいちじくを添える前菜が一般的だが、色々な食材に巻いて調理したり、スープや煮込みのコク出しに使うなど料理のバリエーションは豊富。当店でも開店以来、パルマ生ハムを使用しており「イタリアパルマ産熟成生ハム」は人気No.1の前菜である。