059 おとなのお付き合い
食事やお酒の楽しみ方、味わい方は人それぞれである。自分の家でひとりでくつろいでいる時はルールなんてないので、その人の好きにやればよい。また、夫婦や家族で楽しくやればよい。ただ、レストランでの友人との会食や、ディナーに招かれた場合はどうだろう、自己流を通すことはやはり許されまい。
こんな話がある。ある食通(酒通)のお宅に招かれたお客が、ディナーの最後に出てきた「フィーヌシャンパーニュ」という最高級ブランデーをグイッと一気に飲み干してしまった。それには立派な食通で名の通っている主人もさすがにため息をついて落胆した。行儀の悪いことをしたと気づいたそのお客と主人とのやりとり。
「私の今のお酒のちょうだいの仕方はいけなかったですね、ムッシュー。」
「あっ、いやいや、でもお尋ねとあらば申し上げます。つまり、これくらいの酒齢と品質を持ったフィーヌシャンパーニュはアプリシエート(味わう)する価値があるということです。」
「なるほどムッシュー。でも私は素人なのです。初歩から御手ほどき願えませんでしょうか。」
「承知いたしました。即ちですね、まずグラスを片手のひらに取りその温かみで温めるんです。次にそれを揺り動かし、同時に一寸回転させます。すると香りが放たれて出てくるのです。そこでグラスを鼻先へ持ってきてその香りを吸い込むのです。」
「なるほどムッシュー。それから?」
「それからグラスを下におろして、これについて語り合うのです。」
「・・・・・・・・。」

オリンピックの輪のように、他の輪と交わればそこには当然、社会の付き合いが生まれてくる。いくら友達でも、またそれが家族であっても、最低限のルールを守って節度ある行動をしなければ関係はおかしくなってしまう。酒通を皮肉った話のようではあるが、大人どうしの付き合いがうまく表れていると思う。当店でもグループでの会食は多い。他人のペースに巻き込まれて食べる食事ほど疲れるものはない。時に相手の話を素直に聞き、時に自分の考えを投げ返す。時に笑い、時に真面目に。場の雰囲気をこわさぬ最低限の気配りと幅広い会話のキャッチボールは紳士淑女のたしなみと心得、肩が鈍らないよう日頃から頭をやわらかくしておきたいものである。




