052 コルクの話
コルク栓を抜くときが、ビン詰めぶどう酒一代のうちで一番晴れの瞬間である。その「ポン」という音は天下無類と称してよい。実際このすばらしい音に似た音というものは誰も想いあたるまい・・・とこれは、ある古い本に書かれた一節である。
ビンに詰められ、栓をされた時からそのワインの熟成という人生がスタートする。知っての通り、ワインはそのコルクを通し呼吸をしながら熟成し、静かに抜かれる日を待つ。人間で言えば肺の役割か。状態が良ければ半世紀以上も熟成し続けるワインもあるのだから、コルク肺の役割はとても重要である。一般的に肺活量は多い方が良いとされ、コルクであればそこそこ長いものがよい。しかし現在は昔に比べコルク材が減り、長くて上質なものがだんだん少なくなってきているのが実情。最大の産出国ポルトガルでは、第1級品たる要素を備えてくるのは、樹齢4、50年からで、品質はコルクの木皮を剥がすたびに良くなっていくと言われている。剥がされながら150年くらいは繁茂するらしいが、それでも需要に追いつかないのは、ワインブームのせいか、異常気象のせいか・・・。
最近は、スクリューキャップや(ホームページなどが書かれた)人工コルクが代用される時代で、ヴィンテージ(収穫年)や造り手の名前、シャトーの絵柄が焼印される風情あるコルクたちは少しずつ消えつつある。また、便利さを追求しペットボトル入りワインも出てきているというから、いささか行き過ぎの感がある。あまり考えたくはないが、ワイングラスの横に、ながい役目を終えたそのコルクを眺め、見事に熟成されたワインを味わう、そんな楽しみが遠いいにしえの事となる日が将来やってくるのかも。




